スペースエイジのスーベニール
駅を出ると目の前にポケットティッシュを差し出された。
とりあえず受け取る。歩きながら裏返して見るでもなく見てみる。
そこにはティッシュ配りのバイトを募集するチラシが
挟み込まれているのだった。
自己増殖を繰り返すポケットティッシュのイメージが浮かぶ。
なんだか釈然としない気持ちになりながらもティッシュをバッグにしまう。

また少し歩くと今度は目の前に流れ星を差し出された。さて。
とりあえず受け取る。歩きながらためつすがめつしてみる。
どこからどう見ても流れ星だった。
ギザギザの五芒星に素敵なしっぽがついている。
マリの手の中でひっそりと発光している。
そしてほんのりと温かい。


願い事。


当然、ここは願い事だろう。
マリの願い事は決まり切っていた。
彼女の願い事はいつだってこれひとつきりだったのだ。




もう一度、


カイに会いたい。


* * *


心の表面にカイのことが浮かび上がったその途端、
マリは7、8才の少女になっていた。
そして目の前には懐かしいカイが立っていた。
彼は7、8才の少年の姿をしていた。

確かにカイだった。

「会いたかった。カイ」
少女は少年の手を取った。

「何をしよう?」カイが尋ねると
二人は手をつないで歩き始めた。
マリはカイに流れ星を見せてやりたくて
バッグに手を入れた。
でもそこに入っていたのはポケットティッシュだ。
ティッシュに挟まってるチラシを見て
カイは声をあげて笑った。

「バイトしようよ!」
そういうとカイは駅に向かって転がるように駆け出す。
マリも急いで後を追う。

駅前でティッシュを配っている青年に
カイはチラシを見せ、「これ見て来たの」と告げた。
すると青年はあごをしゃくって地面に置かれた段ボールを指し示し、ふらりと姿を消した。
目の前からいなくなったらもう、どんな顔だったか思い出せない薄い印象の青年だった。
段ボールを開けてみるとそこにはティッシュがぎっしりと詰まっていた。
それを見たカイは短かく歓声を上げた。
カイがあんまり楽しそうなのでマリはなんだか嬉しくなった。

それから二人でたくさんのティッシュを配った。
駅から吐き出されてくるたくさんの人に
どんどんティッシュを渡した。

犬にも猫にも渡したし、鳩にも渡した。
そんな調子だったので、段ボールの中身はみるみるうちに減っていった。
ティッシュがとうとう最後のふたつになったとき、二人は記念にひとつずつ取った。
カイがポケットに一個入れ、マリはまたバッグにひとつ入れた。
「ね、バイト代もらいに行こ」
カイはそう言うと空になった段ボールの中にひょいと入った。
段ボールは思いのほか深いのか、少年がすっぽりと隠れてしまった。
マリはあわてて自分も段ボールに入った。
段ボールの底にはオレンジ色の扉があってカイが消えていくところだった。
マリも遅れないようにカイを追う。

扉の向こう側は河岸だった。
「おなかすいたね」
カイが言うとマリは子どもみたいな気持ちでこくん、とうなずいた。

テトラポットに寄りかかって二人並んで座る。
ティッシュを取り出すとそれは薄い薄い綿菓子でできていたので、
二人でくすくす笑い合いながら、ティッシュの綿菓子を食べた。

食べ終わるとカイはテトラポットの下の隙間に手をつっこんだ。
引き抜いた手には小さな小さな鍵が握られていた。

「行こ。バイト代もらいに行こ」

また、カイが言う。
二人はなかよく手をつないで河原の土手を登った。
土手の向こう側には科学博物館があった。
「カイ、博物館が見たいの?」マリが聞くと
「うん」とカイが答えた。
でも、もう夕方だ。
早くしないと博物館が閉まってしまうのではないかとマリは心配だ。

まだ、入口は開いていた。
受付で鍵を見せると二人はすばやく博物館の中に滑り込む。
ほこりっぽい博物館の中はカイみたいな男の子の大好きなものでいっぱいだ。
マンモスの模型、ティラノザウルスの骨、フーコーの振り子、月の石。
ひとつ、ひとつを見ては熱に浮かされたように
展示物の解説をしてくれるカイだった。
得意げなカイの演説を聞きながら、
彼を科学博物館に連れてきたかったのは
本当は自分のほうなのだと気付いてしまい、
マリはとても悲しくなった。


「見つけた!」


ふいにカイが叫んだ。

「これ、流れ星だよ」
カイがガラス越しに指さしたのはなんだか、冴えない穴だらけの石だった。
でも、迷わずカイは展示ガラスの隅にある鍵穴に鍵を差し入れて回す。
静かにガラスを開けると、そっとその石を持ち上げ、
それからマリの目の前に差し出した。
マリは受け取った。それは意外なほど軽く、そしてほんのり温かかった。

「バイト代」
そう言ってカイが笑った。
また願い事をしてもよいのだろうか?
もし、そうなら…マリが思ったそのとき、
キーンコーンカーンコーン、と鐘が鳴った。

「たいへん、博物館が閉まっちゃう!」
マリはとりあえず石をバッグにしまう。
それからまた手をつないで二人は駆け出した。
「出口どっちだっけ?」
「振り子のほうだよ、早く、早く」
二人が駆け下りたばかりの階段にガラガラとシャッターが下りていく。
マンモスの展示室を駆け抜けると
そことホールの境目にもシャッターが下りていく。
「閉じこめられちゃう!」
マリが叫ぶとカイは
「だいじょうぶ、走って」とマリの手を強く引いた。
ついに外に転がり出ると二人の後ろで大きな大きな二枚の扉が重々しく閉じた。

はあはあ、と息を切らしながら再び、
河原に出た。
もう日は暮れて見上げた空から
たくさんの星がこぼれ落ち、河の水面へと消えていく。





そうか、もうすぐおわかれなんだ。





カイが泣いている気がする。



やっぱりカイは泣いていた。
マリはカイを抱きしめた。
二人は小さな恋人同士のようにしっかりと抱き合った。

カイに泣かれてしまった。
そうか、あの星の名前は泣かれ星か。


「ママ…」

カイがマリを呼ぶと、マリはふいに本来の姿に戻った。
カイを包み込むようにしっかりと抱きしめ直すと、
二人の間を星が流れ、そしてそれは河になるのだ。


* * *


カイの姿が視界から消え、
そしてマリは自宅の玄関の前に立っていた。
玄関を入ると急いでバッグを開ける。
カイの隕石が見つからない。
替わりに金平糖の詰まった袋がひとつ入ってるきりだった。
そしてポケットティッシュ。
裏返すとそこにはありふれたキャッシュローンのチラシが挟まっていた。


「おかえり」とタイチが言った。
「ただいま」
「今日、海に会ったの」

マリはタイチに告げた。
タイチは何も言わずにマリを抱きしめた。




二人は玄関で抱き合ったまましばらく泣いていた。





それから二人で



流れ星の金平糖を食べたのだった。






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【トラバでボケましょう2006 第6回お題】 

『 目の前に流れ星が差し出されました。
  さて。 』
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 企画終了条件は
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 企画元 毎日が送りバント http://earll73.exblog.jp/
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by midnight_egg | 2006-06-06 05:01 | トラバでボケましょう


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