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月は見ていない
宇宙のどこかの片隅で。で開催中の「トラボケ 2008夏 レベル6」にトラックバック。


お題

薄暗い夜道を歩いていると、見知らぬ人物が前方に立ちふさがった。
その人物はコートをはだけ、何らかのブツを露出して、何らかの行為を行いはじめた。
さて、どう反応したものだろうか?




今宵新月。

 生温い夜風は足下を這い上がってくるアスファルトのいやな熱を強調しこそすれ、和らげてはくれない。しけた自動販売機が放つ薄白い光が夏の羽虫を静かに吸い寄せている。
 道の向こうから揺れるようにこちらに近づいてくるシルエットを認め、あたしは思わず知らず緊張して歩が緩くなる。自販機の明かりが中折れ帽を目深にかぶり、コートの前をしっかりとかき合わせたこの季節柄不自然きわまりないその姿を浮かび上がらせる。
 そして、すれ違い様その見知らぬ男があたしに向かってコートの前をはだけたのだった。

ああ。

では彼なのだ。
この男がそうなのだ。

 あたしはその男がコートの中から差し出したブツを迷わず口の中にふくんだ。舌の上のそれはゴムの感触に包まれている。
 私の耳元に低いささやきが響く。
「違う。入れるのなら下だ」

 あたしは右手をスカートの中に差し入れた。下着はつけていなかった。なぜならあたしは今日、この男に会うために自らの意思でここまでやってきたのだから。自分の指であたしはあたしにそっと刺激を与える。いくらなんでも乾いたままでは入れられない。でも、時間もない。素早くことをすませなければならない。あせればあせるほど、あたしはなかなか濡れなかった。自分で自分がもどかしい。指を深く差し入れ、そこを押し広げる。男のブツを口から吐き出すとまだ余り濡れていないそこにムリヤリ押し込んでいく。

奥に。

もっと奥に。
 あたし自身に押し返されるそれを奥に。痛っ。あたしの口からは思わずあえぎが漏れる。奥に。がむしゃらに押し込み続けてようやくそれはあたしの一番奥に届いた。

ああ

 あたしは指を離し、ためいきとも安堵ともつかない熱い息をつく。男はそんなあたしにはかまわず再び低い声で囁く。
「どこだ?」
あたしは黙って、ずっと左手に握りしめていたものを男に差し出す。
 コインロッカーの鍵だ。
「新宿JR西口地下」
あたしがそうつぶやくと男はその鍵をひったくるように奪い、あたしの背後に向かって一目散に駆け出した。深呼吸をひとつすると、あたしもまた男を振り返ることはせず、まっすぐ前を向いて男が走り去ったのとは逆方向に歩き出す。


 道の向こうから白い光が揺れながら近付いてくる。あたしの横で止まったそれは白い自転車で、濃紺の制服に身を包んだ初老の巡査があたしに声をかける。
「あの〜、恐れ入りますがね〜。この辺りで不審な男を見ませんでしたかねえ?」

「え? いえ・・・いいえ」
「そうですか。いやね、この辺りで見たって通報があったんでね、パトロールしてんですよ」
「えっ、ヤだ。こわいですね〜」
「女の人の一人歩きはあぶないよ」
「あ、はい、すみません。一応、防犯ブザーは持ってるんですけどぉ」
「あ、それはいい心がけだよね、でもね。それでもくれぐれも気をつけてお帰りなさいよ」
「あ、はい。ありがとうございます」

 あたしはあたふたと頭を下げ再び歩き出す。遠ざかるあたしの後ろ姿を人のいい巡査は見守ってくれているようだ。


少しでも。
この間に少しでも遠くに逃げてね。
つかまるようなヘマはやめてね。
もっとも帽子もコートも、もうとうの昔に脱ぎ捨ててはいるでしょうけど。

 そしてあたしはコンドームに包まれた末端価格グラム数十万円の白い粉をまるで胎児のように下腹部に仕込んだまま、法の手先から一歩また一歩と遠ざかって行ったのだった。あの緊張の一瞬に、コートを大きく羽根のように広げ私を包み隠してくれていた、そのくせあたしからは目をそらしていた、意外にも幼く見えたあの横顔を薄く淡く思い返しながら。


■□■□■□■□■□【トラバでボケましょうテンプレ】■□■□■□■□■□
【ルール】
参加:
 お題の記事に対してトラバしてボケて下さい。
 締切りは1つのお題に対し30トラバつく、もしくは次の金曜日夜中まで
 1つのお題に対しては1人1トラバ(1ネタ)とします。
 お題が変われば何度でも参加OKです。

チャンプ:
 お題を出した人が独断で審査しチャンプ(大賞)を決めます。
 チャンプになったら王様です。以下の特典と栄誉が行使できます。
  1.お題を出す
  2.言いたい放題な審査をする
  3.次のチャンプを決める
 何か困ったことがありましたら開催事務局までどうぞ。

企画終了条件:
 みんなが飽きるまで、もしくは開催事務局が終了宣言を告知した時です。

参加条件
 特になし!
 ※ 以下あれば尚可!!
 ブログをもっている。あるいはこれから作成する。
 トラックバック機能が使える。

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを記事の最後にコピペして下さい。

 企画元     毎日が送りバント http://earll73.exblog.jp/
 開催事務局  ボケトラの穴     http://trana88.exblog.jp/
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by midnight_egg | 2008-08-18 12:14 | トラバでボケましょう
朝おきて四角いへやの底のほうまだ夜がある 膝丈くらい
トラバでボケましょう2006 第8回大会 開会です。にトラックバック。


朝おきたら、首の左右に、


エラがありました。


えぇーーーーー!

らぁーーーーー!



さてっ、どうしたもんかっ……。

*


うっ。
ど、どうしたもんかっ……、
とか
そーゆーゆーちょーなこと言ってる場合ではなくて、つか、ゆーちょー? ゆうちょっていえばぱるる? ぱるるって何? ゆうちょ、ってなんでひらがなで書くの? メインユーザーであるところの年金受給者たち的にはどうなの? 本当にぱるるで納得してるの? とか言ってる場合でなくて、まったくそういう場合ではなくてエラが、エラがパクパク?パクパク?って「お魚になってあくまで透明な空吸い込まれ骨になるまで」とか即興で適当なメルヘェン詠んでる場合でもなくてまあ、オレってもともとエラが張ってるから「いまさらエラがどーうしたのよぅ、もともとエラ張り怪人なんだからノープロブレム、ノープロブレム」とか総務の女の子はがははと笑うかもしれないけど「お魚になってあんまりかわりばえしないってのもどうなのよソレ」とか、えー、モンダイはそういう外観のモンダイでもなくてがいかんって言やあ、外環っていつできるんだ? とか小市民的にエラそーなこと言ってる場合でもなくて「お魚になって外環周遊す魚雷型したエンジンびんびん」とか…どうしたんだヘヘイ! バッテリーはびんびんだぜ…こんな夜に発射できないなんて、って清志郎が喉頭ガンで入院なんてオレっちは本当にショックだったぜい、ってえーと何の話だっけか? そうだエラだよ、エラがオレの首の左右にコラボってるわけなんだが、ステレオ的に左右対称的にツインズな感じにジェミニー的にエラがあるわけだが、えーと、でも現在の根元的な問題点はそうではなくて、アレだアレ、「哀川翔が語る少年犯罪と家庭」、「ヨン様「家族」熱く進化」、「ホリエモン組再結集で天下取り」、いや、今週のAERA(アエラ)の話でもなくてなんだ? 「お魚になってVシネ王になり両立しつつ少年叱る」っていやイミフメイだし、その、あれだ、あれだってばよ、そうだよな、ナスカ! 生涯に一度でいいからこの目で見たかったナスカの地上絵、それから空中都市マチュピチュ! ってそれじゃねえよ、ベネズエラじゃねえよ、「お魚になって空中都市に棲む マチュピチュピチュと尾びれを鳴らす」とかまた即興ってる場合じゃねえ、違うんだ、つまりオレがこの場合言いたいのはあれだよ、人魂っていうか、狐火っていうか、「セントエルモの火」、っていうかすべてプラズマっていうか、大槻教授っていうか、…っていうか、じゃねえ! 聖エラスムスじゃねえ! 「お魚になってプラズマくぐったらセサミ通りに赤いエルモが」ってお魚がむちゃくちゃ余計だが、そうじゃなくてsakusakuからブレイクした女の子といえば木村カエラだけど、オレはまあよくは知らねェし、なんでわざわざよく知らねェガーリーなポップスなシンガーの話かってかいうと木村+カエラって名前の組み合わせにひっかかりがあるからまんまと名前を覚えちゃってるわけで、つまりは名前って大事だよな「お魚になってさかなへんつく文字を考えている なんて名乗ろう」…って違うだろ? ボーカルでエラっていえばむしろエラ・フィッツジエラルドだろ? いやフィッツジエラルドといえばゼルダだろ? ゼルダって言えば「カルナヴァル」とか「空色帽子の日」とかそんなんもう誰も覚えちゃいねえ、むしろ伝説だろ、リンクの冒険だろ…じゃなくて、またエラい脱線してるぞ? そもそもなんだ? なんの話だ? エラだ、「ローマ帽子の謎」だ、「チャイナ橙の謎」だ、いやいやそれも違うぞ、それはエラリー・クイーンだぞ、なんかやけに帽子が頻出しているが「お魚になって麦わらぼうしから逃げてはまどう真夏の小川」って、いやそういうことでなくてつまりオレがオレがなんだっけ…なんつか、なんつか、あれはなんだっけ、ほらよー、エラ、いやもうエラ…の話はもういい、オレ…オ…レ…オレがいいたいのはあれだ、あれのことなんだ、オレが頑固一徹、徹頭徹尾、一貫して言いたかったのはあれだ、あれのことだけだったんだ、あれ、なんて言ったっけ、そうだ! …酸素だ、




酸素が

ねえーーーーっっ!










お魚になってはじめたエラ呼吸 肺持たぬひと海へと還れ







エラ

エラー(生命反応0)


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【ルール】
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 チャンピオンになった人は発表の記事にトラバして次のお題を投稿します。
 1つのお題に対しては1人1トラバ(1ネタ)、
 同一人物が複数のブログで1つのお題に同時参加するのは不可とします。

 企画終了条件は
 全10回終了後、もしくは企画者が終了宣言をした時です。

 参加条件は特にないのでじゃんじゃんトラバをしてボケまくって下さい。

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by midnight_egg | 2006-07-23 18:42 | トラバでボケましょう
スペースエイジのスーベニール
駅を出ると目の前にポケットティッシュを差し出された。
とりあえず受け取る。歩きながら裏返して見るでもなく見てみる。
そこにはティッシュ配りのバイトを募集するチラシが
挟み込まれているのだった。
自己増殖を繰り返すポケットティッシュのイメージが浮かぶ。
なんだか釈然としない気持ちになりながらもティッシュをバッグにしまう。

また少し歩くと今度は目の前に流れ星を差し出された。さて。
とりあえず受け取る。歩きながらためつすがめつしてみる。
どこからどう見ても流れ星だった。
ギザギザの五芒星に素敵なしっぽがついている。
マリの手の中でひっそりと発光している。
そしてほんのりと温かい。


願い事。


当然、ここは願い事だろう。
マリの願い事は決まり切っていた。
彼女の願い事はいつだってこれひとつきりだったのだ。




もう一度、


カイに会いたい。


* * *


心の表面にカイのことが浮かび上がったその途端、
マリは7、8才の少女になっていた。
そして目の前には懐かしいカイが立っていた。
彼は7、8才の少年の姿をしていた。

確かにカイだった。

「会いたかった。カイ」
少女は少年の手を取った。

「何をしよう?」カイが尋ねると
二人は手をつないで歩き始めた。
マリはカイに流れ星を見せてやりたくて
バッグに手を入れた。
でもそこに入っていたのはポケットティッシュだ。
ティッシュに挟まってるチラシを見て
カイは声をあげて笑った。

「バイトしようよ!」
そういうとカイは駅に向かって転がるように駆け出す。
マリも急いで後を追う。

駅前でティッシュを配っている青年に
カイはチラシを見せ、「これ見て来たの」と告げた。
すると青年はあごをしゃくって地面に置かれた段ボールを指し示し、ふらりと姿を消した。
目の前からいなくなったらもう、どんな顔だったか思い出せない薄い印象の青年だった。
段ボールを開けてみるとそこにはティッシュがぎっしりと詰まっていた。
それを見たカイは短かく歓声を上げた。
カイがあんまり楽しそうなのでマリはなんだか嬉しくなった。

それから二人でたくさんのティッシュを配った。
駅から吐き出されてくるたくさんの人に
どんどんティッシュを渡した。

犬にも猫にも渡したし、鳩にも渡した。
そんな調子だったので、段ボールの中身はみるみるうちに減っていった。
ティッシュがとうとう最後のふたつになったとき、二人は記念にひとつずつ取った。
カイがポケットに一個入れ、マリはまたバッグにひとつ入れた。
「ね、バイト代もらいに行こ」
カイはそう言うと空になった段ボールの中にひょいと入った。
段ボールは思いのほか深いのか、少年がすっぽりと隠れてしまった。
マリはあわてて自分も段ボールに入った。
段ボールの底にはオレンジ色の扉があってカイが消えていくところだった。
マリも遅れないようにカイを追う。

扉の向こう側は河岸だった。
「おなかすいたね」
カイが言うとマリは子どもみたいな気持ちでこくん、とうなずいた。

テトラポットに寄りかかって二人並んで座る。
ティッシュを取り出すとそれは薄い薄い綿菓子でできていたので、
二人でくすくす笑い合いながら、ティッシュの綿菓子を食べた。

食べ終わるとカイはテトラポットの下の隙間に手をつっこんだ。
引き抜いた手には小さな小さな鍵が握られていた。

「行こ。バイト代もらいに行こ」

また、カイが言う。
二人はなかよく手をつないで河原の土手を登った。
土手の向こう側には科学博物館があった。
「カイ、博物館が見たいの?」マリが聞くと
「うん」とカイが答えた。
でも、もう夕方だ。
早くしないと博物館が閉まってしまうのではないかとマリは心配だ。

まだ、入口は開いていた。
受付で鍵を見せると二人はすばやく博物館の中に滑り込む。
ほこりっぽい博物館の中はカイみたいな男の子の大好きなものでいっぱいだ。
マンモスの模型、ティラノザウルスの骨、フーコーの振り子、月の石。
ひとつ、ひとつを見ては熱に浮かされたように
展示物の解説をしてくれるカイだった。
得意げなカイの演説を聞きながら、
彼を科学博物館に連れてきたかったのは
本当は自分のほうなのだと気付いてしまい、
マリはとても悲しくなった。


「見つけた!」


ふいにカイが叫んだ。

「これ、流れ星だよ」
カイがガラス越しに指さしたのはなんだか、冴えない穴だらけの石だった。
でも、迷わずカイは展示ガラスの隅にある鍵穴に鍵を差し入れて回す。
静かにガラスを開けると、そっとその石を持ち上げ、
それからマリの目の前に差し出した。
マリは受け取った。それは意外なほど軽く、そしてほんのり温かかった。

「バイト代」
そう言ってカイが笑った。
また願い事をしてもよいのだろうか?
もし、そうなら…マリが思ったそのとき、
キーンコーンカーンコーン、と鐘が鳴った。

「たいへん、博物館が閉まっちゃう!」
マリはとりあえず石をバッグにしまう。
それからまた手をつないで二人は駆け出した。
「出口どっちだっけ?」
「振り子のほうだよ、早く、早く」
二人が駆け下りたばかりの階段にガラガラとシャッターが下りていく。
マンモスの展示室を駆け抜けると
そことホールの境目にもシャッターが下りていく。
「閉じこめられちゃう!」
マリが叫ぶとカイは
「だいじょうぶ、走って」とマリの手を強く引いた。
ついに外に転がり出ると二人の後ろで大きな大きな二枚の扉が重々しく閉じた。

はあはあ、と息を切らしながら再び、
河原に出た。
もう日は暮れて見上げた空から
たくさんの星がこぼれ落ち、河の水面へと消えていく。





そうか、もうすぐおわかれなんだ。





カイが泣いている気がする。



やっぱりカイは泣いていた。
マリはカイを抱きしめた。
二人は小さな恋人同士のようにしっかりと抱き合った。

カイに泣かれてしまった。
そうか、あの星の名前は泣かれ星か。


「ママ…」

カイがマリを呼ぶと、マリはふいに本来の姿に戻った。
カイを包み込むようにしっかりと抱きしめ直すと、
二人の間を星が流れ、そしてそれは河になるのだ。


* * *


カイの姿が視界から消え、
そしてマリは自宅の玄関の前に立っていた。
玄関を入ると急いでバッグを開ける。
カイの隕石が見つからない。
替わりに金平糖の詰まった袋がひとつ入ってるきりだった。
そしてポケットティッシュ。
裏返すとそこにはありふれたキャッシュローンのチラシが挟まっていた。


「おかえり」とタイチが言った。
「ただいま」
「今日、海に会ったの」

マリはタイチに告げた。
タイチは何も言わずにマリを抱きしめた。




二人は玄関で抱き合ったまましばらく泣いていた。





それから二人で



流れ星の金平糖を食べたのだった。






……………………………………………
【トラバでボケましょう2006 第6回お題】 

『 目の前に流れ星が差し出されました。
  さて。 』
……………………………………………



【トラバでボケましょうテンプレ】
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by midnight_egg | 2006-06-06 05:01 | トラバでボケましょう
エロロン・クエスト
深い肩胛骨のくぼみ。
薄い胸板、「ルパンIII世」に出てくる人みたいな細い足首。
彼よりあたしの好みを具現化している男の子なんて
彼のあとにも先にもいなかった。


バイト先の休憩室。
「・・・オレ今レベル11・・・」
聞こえてきた会話に思い切って口をはさんだ。
「ドラクエ? あたしも今やってるよ・・・」
ひ、ひかれるかな。
「おお♪ 今レベルいくつ? オレなんかもう。毎晩平均睡眠時間2時間よー」
やった。なんとも軽やかな返事が戻ってきた。
「へえー。ゲームやるんだ、意外〜」
外野のオンナ、うるさい。
こちとらおまえなんかアウト・オブ・眼中だから。
「コントローラ握ったまま、うとうとしちゃうんだよね。
 あのさ、レベル11なら教えてほしいとこあるんだけど・・・」

ここにバイトに入って3日目のことだった。
なんとかつかもうとあがいていた会話のきっかけは
実にあっさりと手に入った。ドラクエさまさまだ。
バイトあがるのは私のほうが1時間も早いのに
休憩室でだらだらと時間をつぶして彼があがってくるのを待つ。
「おまえさあ、せっかく早くあがったのにまだいるの〜?」なんて
からかい口調ながら「危ないから送ってやる」
いい男だね♪ もとい素直よね。もちろんそれが狙いなのよ。
すべてはあたしの思惑通りに進んだ。拍子抜けするほど簡単だった。
初キスはもちろん、バイト帰りの暗い路上だった。
彼の部屋に上がり込むまで一週間。
「帰りたくない」と発言するまでそこから3日。
彼のすらりとまっすぐな足と骨張った輪郭は本当に素敵だった。
大好きよ。もっとゆっくり楽しみたかったけどな。
かなり駆け足でここまで来ちゃった。

攻略済み。

いつも。
いつもここまで来るとやっぱり残念だなあ、って思う。
もっとゆっくり。もっとじっくり。
彼とセーシュンすればよかったかなぁ、って。
ごめんね、あなたをターゲットにして。
本当に本当に誰よりも好みだったよ・・・。
これまでで一番。たぶんこれから先もずっと。

ごめんね。
心の中でつぶやくと、あたしは彼の愛撫を受け入れ、
そして獲物をしっかりとくわえ込んだ・・・。


*  *  *  *  *  *  *  *  *


ドラクエももうVIIIかあ・・・。
あれから何年経ったんだろう?
あたしはファミコンで「ドラクエ」をやってた頃と
まったく変わらない18、19の少女の姿を今でも保ってる。
もちろんファッションとかはその時々に応じて変化してるけど。
今でも相変わらずファミレスやコンビニのバイトを転々としながら
今日もあたし好みの素敵な男の子を探してるの。
彼を越えるような男の子をね。



恐ろしいことにこんな未公開テキストが転がっていたのを発見してしまった〜。
江場中祭りに闖入してみる」の原文なのだわ。アプしはぐってたのね。時事ネタだったけどむしろ、はっきりとずれてしまった今の方がかえって読みやすいみたい。なので、臆面もなく今更アップ。厚顔無恥。
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by midnight_egg | 2006-04-20 23:46 | 散文
わたしの名前を呼ぶのは、だれ?<B-SIDE>(参加外作品)
あなたの胸を鞘に見立ててすらりとナイフを抜き放つ。
真紅の噴水を露わな乳房に受け、その白と朱のコントラストに恍惚となる。
と、あなたの指が、もはや動かないと信じていた指が
私の手首を握りしめる。思いの外強く握りしめる。
喉元から恐怖と嫌悪がこみあげてきて嗚咽と反吐があふれ出す。
声が出ない。喉の真ん中に恐怖のボールが詰まって息ができない。
あなたの手をふりほどこうとむやみに腕を振り回していたら
突然ふわりと開放される手首。
手首にはあなたの指のあとが赤くくっきりと巻かれていた。
またもや白と朱。
しかし美しかった白と朱の世界の中に、
今や吐き気を催す饐えた臭いが充満しつつあるのではないか?
ぐわんぐわんと耳鳴りがする。その耳鳴りの奥底に響く幽かな声。
あの声がまた、幽かにわたしを呼んでいるのだ。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


ショーは終わった。
カーテンコールは終わった。
スポットライトの魔法は消えて白茶っけた光の帯に舞うのは埃の渦だけ。
ベルベットの緞帳は、毛羽立ち色あせすり切れた疲れ気味の素顔を晒している。
ガムの噛みカス、煙草の吸い殻、唾、痰、丸めたティッシュペーパー、白い精液。
客席の床に散りばめられた残骸はわたしの勲章だ。
ステージの中央につと立ってわたしは誰もいない客席に深々と頭を下げた。
ジ・エンド。
今夜を境にもう二度とわたしがこの舞台に立つことはないのだと
喉元にこみ上げてくるものを飲み下し、私はひざまづく。
わたしの舞台、私の小屋。
キャパ50人の小さな小さな劇場だけど、この上もなく愛おしい。
そう、この板は50年以上もの長きに渡る私のパートナー。
男たちが、幾千人、幾万人と知れぬ男たちが
わたしに恋い焦がれ、わたしに欲情し、わたしを心で犯し、そして昇天した。
そのときにはいつもわたしを上に乗せ、わたしをあえがせてきた生涯の伴侶。
わたしはすべすべとした板を掌でさらさらとなでた。
それから腰をかがめ舞台に接吻する。
と、そのとき
わたしとステージとのこの上もなく神聖なこの時の中に
ずかずかと土足で割り込んできたしゃがれ声。

「ばばあ、まだいたのか。早く帰れ!」

わたしに「引退」の二文字を言い渡したのと同じ声がそれを言ったのだ。
その刹那、わたしの頭の中で小さな声がスパークしてはじけた。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


きみが綺麗だから、僕はいつだって言い返すことができなかった。
きみはいつも早口で、なんでもかんでも矢継ぎ早に言うから。
僕はいつも会話についていけなくて、うん、うん、とバカみたいに相づちを打つ。
よく動く形のいい唇を見つめながらなんて頭の回転が速いんだろう、といつも感心ばかりしてた。
きみの綺麗な白い指にとてもよく似合うリング。
本当に似合うと思ったんだ。だからおねだりされてとても嬉しかった。
これまでにバッグや靴やコートなんかをおねだりされたときももちろん嬉しかったし、
これまでにもキラキラした女の子が喜びそうなものはたくさんたくさんプレゼントしてきたけど。
でも、リングをおねだりされたのは初めてだったよね。
すごく嬉しかったんだ。だって、リングだもの。
とうとうきみが心を許してくれたんだ、とそう思ったんだ。
やっと触れることができる、綺麗なきみをかき抱き、壊さないようにそっと。
僕はとてもそっと、と思ったのに突然きみの口から、とても綺麗な形のいい唇から
聞くのもおぞましい、まるでもぞもぞとした虫の大群のような言葉があふれ出してきた。
げじげじ、もぞもぞ、いがいがとした虫の大群はいつ尽きることもないかのように
次から次へと列をなし、そのおぞましさに僕の目からは涙が溢れ出す。
綺麗な形のいいきみの唇からとめどなく溢れ出る汚く汚らわしい何か。
止めなくちゃ、早く止めなくちゃ。そのとき、僕の胸の奥底で僕を呼ぶ声がしたんだ。
とてもとても小さな声だったけど、それは綺麗で研ぎ澄まされた声だった、はっきりと僕を呼んだんだ。

「僕の名前を呼ぶのは、 だれ?」





「わたしの名前をあててごらん。

 わたしの頭は魚の頭。

 わたしのしっぽはキリキリと痛む。

 私の中身は炎天下で愛を失った。

 さあ、早く。わたしの名前をあててごらん。

 わたしの名前は、

 なあに?」









答え・・・殺意







第3回TBでボケましょう用に書きかけてたボツ・バージョンを一応最後まで仕上げてみました。最初とりとめもなく書き始めたらこんな方向に行ってしまったんですよね。だいたいミステリ風味オケだったのは前回だし。なんかボーっとしてるとこんな病んだ感じのものばかり書いてしまいます。あと「そこには誰もいないはずのシチュエーションで呼ばれる」というパターンも思いついたんだけど、その場合できあがるのはホラーだ。
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by midnight_egg | 2006-04-12 11:20 | トラバでボケましょう
春宵
MS.POKERFACEで開催中の第3回TBでボケましょうに参加。


第3回お題
「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」



んわんわんわんわん・・・。
頭の中でわんわんいう音が反響している。誰かがわたしの頭を左右に揺さぶり続けてるみたい。
やめれー。やめてくれー。薄目を開けてみる。光の帯の中で埃がきらきら踊ってる。眩しくて目がよく見えない。目を半眼にしたまま、こんこんと考えてみる。こんなこと滅多にないんだけど。飲み過ぎたのかなー。

いやいや。このわたしに限ってそんなことは。えーっと、まず乾杯は定番の缶ビールで。年に一度の花見だもん。発泡酒なんかじゃやってらんない。ちゃんとプレミアムモルツ奮発して。これは確かだ。しかし、プレミアムモルツのどこらへんがプレミアム? WBCのCがクラシックなのと同じくらいわからない。縦ロールの白いかつらかぶった人たちが野球やってる、みたいなビジュアルイメージになっちゃっうのよね、ワールド・ベースボール・クラシック。個人的に。

んで、二杯目はなんだったっけ? あれ? やばっ。もう思い出せない。つい昨日のことだよ、昨日。この分じゃただ今の脳年齢、98歳ぐらいだわ、わたし。えーっと、えーっと。誰かが持ってきた白ワイン、あれは甘すぎたよねー。んー? 二杯目がワインってことはないよね。私の中でずっと話題沸騰だった「氷結ゆず」に行こうとしたら全部「氷結グレープフルーツ」だったんだっけ。あり得ない。1ダース全部、グレープフルーツ。まあ、いいやって飲んだけどね、飲み慣れた氷結グレープフルーツを1ダース。ワンカップの中に桜の花びらが一枚、浮いていたのを覚えてる。あれはワインの前だっけ? あとだっけ? 風が急に強くなって、すごく寒くなってきたんだ。そして隣にいた、隣にいた・・・あれ? 隣にいたのは誰だっけ?

うだうだ考えているうちに大分、目が慣れてきた。
・・・って、あれ?
ここ、わたしの部屋じゃない!?

すっと、一気に酔いが引いていく気がした。
と、そのとき。
わたしの名前を呼ぶ声がした。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


まんねーなー、おい。うえー、気持ち悪い。宿酔いなんて何年ぶりだ? 飲み過ぎだってば。酔い潰すつもりが酔い潰されてどうするんだって。ざるだよ、ざる。生きたざる。自称ざるを名乗る人間ってのはこれまでも会った気はするけど、オレが本当にざるだと思ったのはこの女が生涯お初、ファースト・コンタクト・オブ・ざる。文法違う? 気にすんなって、オレがエーゴ、ペラペラだったらそれこそ意外でしょが。キレーなお姉さんだなー、と思って隣に座ったのが運のツキってヤツっすかね。キレーな月だったっすけどね、昨日は。いやね、こうして今、朝の光で寝顔見ててもそれなりにキレーっすよ、お姉さんも。でもよー。なんとかお部屋にお持ち帰りしたところで護身術が炸裂するとは。殺す気か? この女。殺されるかと思ったよー、こえーよー。んで、またオールで酒盛りッスか? 殺す気か?  ラブホでなくて夜景のキレーなお部屋を奮発したっつーに夜景なんか必要ないでしょ、この女。C2H5OH、つまるところ飲料アルコールさえあればよかったわけでしょ? あ、すげー、学あるとこ見せちゃったかな、オレ。C2H5OH。仕込んだのよ、仕込みですって。花見でキレーなお姉さん口説くためにさ、化学式なんぞ仕込んどいたのよ。ご披露する段で呂律が怪しくなって噛み噛みになったのは我ながらご愛敬よ。でさ、オレ今、冷蔵庫見て顔色が冷蔵庫より白ーくなっちゃたのよ。C2H5OH、空ですから。すっからかん。ゼロ。無。なーんにもなし。エーンプティ。

これの支払いどーすんだよー、オイ。
おい、起きろ! とオレが女の名前を呼んだそのとき、

「オレの名前を呼ぶのは、 だれだ?」

つれいいたしました。
わたくしはピンクの象です。
象と申しましても、このように体長は5センチくらいでございますね。
今からわたくしと愉快な5センチの仲間たちがピンクの象のパレードをご覧に入れます。
高さこそ5センチですが、長さは3メートルの大パレードでございますよ。
わたくしのことは隊長とお呼びくださいませ、体長5センチの隊長と。
わたくしただいま体調崩しておりまして隊長だけに。
でもご安心ください、わたくしどもには彼女がおりますだけに。
あれに見えますピンクの象、あれが我らがプリマドンナでして、
彼女のことはピンクの象とお呼びください。
それではジェントルマン(単数形)、我らがピンクの象を盛大な拍手でお迎えください!
と、このピンクの象的もっとも大事な局面に

「わたくしの名前を呼ぶのは、 だれです?」


ってるところわるいけどー。ちょっと静かにしてくんないかなー?
象だかショーだか知らないけれどー。ピンクだかビンゴだか知らないけどー。
今、朝だから。あたしはこれから休むのよー?
ショータイムはもーおしまーい。やるんなら深夜にして頂戴、深夜に。
あたしはさ、夜の女だからー。
あたしもねー、塩さえ撒かれなければ明るくたってなーんのこたないのよおー、ほんとは。
でもねー、ちゃんと休みたいのよねー。24時間営業なんてゴメン被るのよねー。
霊は霊なりにねー、お肌にも気を使ってみたり。
文字通りね、透けるような透明感溢れるお肌ってのを維持するためにねー。
必要なのよー、それなりに休息がー。このお部屋の専属霊としてね、
磨かれた自分を維持していくってね、それなりに大変なワケー。
なあんてあたしがあたしの職業倫理をご開陳遊ばしてたら
あたしのお腹を通過(失礼しちゃう)していく声がした。

「あたしの名前を呼ぶのは、 だあれ?」


、なんだー?
なんかいるー。
ぶんぶん。いーにおい。いーにおい。ぶんぶん。
ごちそう、ごちそう。すりすり。
あ、いま、通ったとこやな感じー。
ヒヤっとしたー。なんかいるー。
やな感じ、やな感じ、ぶんぶん。
お外。このへやの中、やな感じー、お外いこ。
お外だ。あれ?

「名前、呼ぶの、 だれ?」


見ろよ、前(笑
くっくっくっく。いっただきまーす。くっくっくっ。
まっすぐ突っ込んでくるたー。
くるっくー。ごっそさん。くっくっくっく。その時

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


をををを。
鳩よ、鳩よ!
おまえがそのくちばしに銜えている小枝を。
その小枝をわたしの手に! と、わたしが天に手をさしのべたそのとき、

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれだ?」


ブの書でーす、こんにちは。いや、なんで? とか聞かなーい。
強いて言えばだいぶ面倒になってきた、とか、そんな感じー?
え? 面倒って誰が? やだなー、突っ込まない、そこ突っ込まない。
突っ込むんだったらアレだけにして。硬くて柔らかくて太くて長いアレ。
そうそう、十分にたぎっているあたしの中に一気に突っ込んじゃってほしいの。
あ、やだ興奮してきちゃった。・・・突っ込んでくれる? 
あ、待って。あたしが沸騰するまで・・・待って・・・ん・・・ダメ、まだ・・・あ・・・
あ、もうすぐだから、待って、あ・・・まだ、待って・・・ん・・・ん・・・ん?

「あたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


ー、ちょっとぉ! 鍋!
鍋、火、かけっぱなしだよぉ? 火事になるよぉ?
家事は人に押しつけといて、ご自分は火事の仕掛け人ってわけですか?
と、怒り心頭、イヤミのひとつも言ってみたりしたのは、
だって鍋を火にかけたご本人がどこにも見当たらないからだ。
煙草でも買いに出ちゃったんだろうか? まったく・・・
と、そのときトントントン、とノックの音が。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


ックとはまた古風ではアリマセンカ。
しょうがないでしょう。壊れてるんですよ、この部屋のインタフォン。
トントントン、入れてください。鍵持たないで出ちゃった。
つか、今どきオートロックもない木造アパートにお住まいなわけで、
おまけにインタフォンも壊れちゃっててもう真実古風なワケっすよ。
せっかくの手動ロックなんだから。わざわざマニュアルで鍵かけないでくださいよー、中から。
ものの5分じゃないデスカ。開けとけよ。って、これがほんとのノックアウト。
って、言ってることまで古風になっちゃいましたヨ、と。
クラシカル・ギャグ。てかアンティーク・ギャグ。
とかなんとかこんな具合に一人遊びが上手な私を背後から呼ぶ声がして。

「私の名前を呼ぶのは、 だれ?」


、はっくしょん! おお。今日はうまいこと充満していけそうな予感がする。
となりのご主人ったら、また閉め出されてる。学習能力ってものがないのかしら?
まあ、だいぶ暖かくなってきたからいいようなものの。
はっくしょん! はっくしょん!
おお。いい感じで・・・ほうぼうで。
・・・充満するのが目的なのかな? わたし。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


、、ただ一人、軌道に乗って。まわり続ける。まわりながら
観測カメラが感じたデータをひとつひとつ、アウトプットしていく、
気温、湿度、地表温。 スギ花粉の飛翔量が上昇する季節。
花粉、とそっと呼んでみた。それが何なのかその実体も知らずにわたしは。
そして、また地球の自転に同期して何も知らずにただ観測し続ける。

わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


いち、とわたしは思った。
空、とわたしは思った。
雲、と思って太陽、と思って、
ひゅーと駆け抜けた。
空気とわたしは思って、わたしは空気だと思って
また駆けた。とわたしを呼んでいる声がする。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


ッツゴー! 風が来た。強い風が吹いてきた。さあいよいよ、わたしの番でしょう? そう思った次の一吹きで、わたしの足はガクから引き剥がされ遠く枝を離れてぐんぐんと上昇する。くるくるくるくるとわたしは上に下に舞い踊った。

くるくると自在に躯がまわるのだ。素敵だ。

わたしとわたしの仲間たちはくるくると踊る。踊り狂う。夜目にちろちろと白く光りながら。花冷え、花寒、花嵐。祭りが来る。春の嵐がくる。わたしたちは綺麗。見る者を狂わし、惑い、酔わせるほどに、綺麗。狂おしく光り、降り注ぐ。さあ、わたしたちをご覧、わたしたちを思う存分。酔いしれて。酔いしれて。ふっと風がやんだ、その刹那

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


 あ、花びら?
水の表面が「みなも」なら、酒の表面はなんて呼べばいいんだろう?
「さかも」?
ワンカップの水面に浮かぶ白い花びら。
花びらに寄り添うように映るは月。
月がゆらりと揺らめいて、わたしはクッと月を飲み干した。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」




月が

ゆらりと


わたしに尋ねた。

テンプレ
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by midnight_egg | 2006-04-10 12:04 | トラバでボケましょう
ぬぐう
ようやく家に帰ってきました。
相方はすでにベッドで眠っているようすです。むー。
疲れたよー、と口の中でつぶやき、よー、の語尾に合わせてベッドの足元にバッグをぽんと投げ出します。
続けてあたし自身もベッドにぽんと倒れ込んでしまいたいところなのですが
そこはグッとこらえまして。なんとかティッシュの箱に直行しました。
えらいえらい。まずはがんばったね、あたし。
ティッシュを一枚抜き取って唇をぬぐいます。すでにはげかけていたのでしょう。
ティッシュには弱々しいピンクの筋がかすれ気味に残っただけでした。

重力が、重たいよー。

でも駄目駄目。ベッドに触れてしまったら本当アウトですよお。
朝まで眠ってしまうに違いないです。夢すらも見ずにどろどろと。
あたし、またもやがんばりました。
まるで食べ終わったポテトチップスの袋の底から残りカスをかき集めるみたいにして
身体の底のほうにわずかに残ってる気力のカスをかき集めました。
かき集めた気力を全て使って、ロボットみたいにぎくしゃくした動作でベッドに背を向けます。
だって。とにかくメークだけは落とさなくちゃ。でしょ?
よたよたと洗面所まで行き、鏡の前に立ちます。

で。

鏡を見たあたしは唖然としてしまいました。


なぜかって、鏡の中のあたしには唇がなかったんです。
というか口自体がなかったの!
口がないクセに「ぽかんと」としかいいようがない
間の抜けた表情で鏡のこちら側のあたしを見つめている鏡の中のあたし。

あ・ぜん。

見間違いかな、と目をこすります。
するとなんと。
今度はこすった側の目(右目)が消えてしまいました。

(ぎゃあ!)

あたしは声にならない叫び声をあげました(心の中で)。
なんせ口がないものですから発声することはできなかったのです。

いったい全体何が起こっているのでしょう?



落ち着かなきゃ。



まずは落ち着くことです。
パニック起こしちゃ駄目駄目、駄目駄目。さあ、数を数えて。
いーち、にいー、さーん、しいー、ごー、ろーく、しーち、はーち、くー、じゅう。
・・・ふー。(深呼吸)
ええと。あたしは今、何をしようとしていたのでしたっけ?
そうそう。早く寝たいからとにかくその前にメークだけは落とそうと。

とにかくメーク落とし!
あたしはメーク落とし用のウェットティッシュを一枚抜き取ると頬を拭きました。
そしてもちろん、その行為は更なるパニックをまねきました。
当然の帰着って言ってもいいのかしら?
今度は鏡の中のあたしの顔から右頬が消えてしまっていました。

実はこう見えてあたし、気が短いところがあるんです。
右頬までも失ったことですっかり逆上してしまったあたしは、
次の瞬間、どうとでもなれという自暴自棄な気分になって
ウェット・ティッシュで顔全体をこすってしまったのです。
どうしてこう、こらえ性がないんでしょうか?
やるだけやってしまってから後悔しても遅すぎますよね。
顔のなくなったあたしって自分では見えないんだけど、
推理するに銀河鉄道999の車掌さんの顔のような具合になってるんでしょうか?
いやいや、車掌さんの場合は目が光ってるだけましかも。
あたしなんか目もないし、目も見えないんだよー?

あー、疲れてるのになんなの、もー!
この理不尽に対する怒りをどこにぶつけていいのやらわかりません。
ひとつだけいいことがあるしたら、
もはや肌荒れのことなんか気にしなくてもよくなったってことだけです。
そうよ、もうメーク落とさなくてもいいんじゃないの?
だったら寝よう。寝ちゃおう。寝てしまおう。
あたしは乱暴に服を脱ぎ捨てて下着だけになると、文字通り這ってベッドにたどり着きました。
(だって何にも見えないんですもの)
手探りで同居人のとなりに躯をすべりこませます。

オヤスミナサイ。



・・・と。
あー、もしもし?

あたし今日はすんごく疲れてるんだからやめてくれないかなあ?
同居人の手が私の胸の辺りをまさぐってくるんです。
あ、ダメ・・・とか思ったのはつかの間でした。
あたしの乳首から彼の指の感触がふっと消えました。

・・・でもたぶん、

彼がやめたわけではないのです。
彼の指に触れられたあたしの乳首のほうが、もしかして。



・・・!
やめてぇ。


抗議しようにも声が出せないあたし。
彼の指は今やあたしを押し広げようとしています。
そして、あ、ん、

        と、

   思う、

間もなく、

       あたしの・中

               から

     彼のゆび

          の

  気配が
         消
          え
           て


               そして


あたしの

      中に 広がっていく 虚空・・・



            ・・・彼は、殺人犯



などでは アリマセンよ・・・って、誰にも言ってあげられない・・・


        あたし・・・

                     もう、消えますね





          バイ。

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by midnight_egg | 2006-04-01 00:20 | 散文
特別な日
オアフ党にて、いよいよ2006年第2回TBボケが開催されました。まずはウォーミング・アップでございます。


第2回お題
『幸せな空気に満ち溢れた披露宴。
新郎・新婦の入場から、ずっと何事も無く進行していたのだが、
新郎の会社の同僚という男がスピーチのためマイクの前に
立った瞬間から、披露宴会場は誰もが予想できなかったほどの
大パニック状態に陥ってしまったのだった。
果たして何が起こったのか?』



「野比くん、 そしてしずかさん、今日は本当におめでとう。
 それでは不詳この私、剛田武が心を込めて歌います・・・」

■□■□■□■【トラバでボケましょう前座テンプレ】■□■□■□■□■
【ルール】
 お題の記事に対してトラックバックしてボケて下さい。
 (以下略)

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを(以下略)。

 企画元 毎日が送りバント http://earll73.exblog.jp/
 テンプレ改変 やみくもバナナメロン http://nightegg.exblog.jp/
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 というわけで前座でございましたー。今回の審査委員長ishionishinさんは「私はテレビをあまり見ないので、ドラマとか芸人さんについては一般的知識が欠如しています。」と明快におっしゃっていますし、既成のキャラクターで勝負するのは得策ではないですね。さー、では本番ガンガロウ!



第2回お題
『幸せな空気に満ち溢れた披露宴。
新郎・新婦の入場から、ずっと何事も無く進行していたのだが、
新郎の会社の同僚という男がスピーチのためマイクの前に
立った瞬間から、披露宴会場は誰もが予想できなかったほどの
大パニック状態に陥ってしまったのだった。
果たして何が起こったのか?』



 いよいよ次がNのスピーチね。Nが来るってのは招待客の打ち合わせのときからわかってたワケだし、あたしだってこれっしきのことで動揺したりはしないワケ。Nとユウくんは同じ課の上に同期だもんね。「呼ばないで」とかユウくんに言うわけにもいかないじゃん、スピーチ頼みたくないとかそんなことも言えるワケないじゃん、そんなこと言ったりしたらヘンに勘ぐられちゃうじゃん。今はとにかく目を合わせないようにしてればいいわけなのよ。にっこり笑って焦点はビミョーにずらしてマイクについてる花とか見てればいいわけなのよ。・・・つか、こらN! ジロジロこっち見てんじゃねえよ。アンタはユウくんの招待客なんだからユウくん見てしゃべってればいいのよ。ウケとか狙わなくてもいいんだよ、さっさと話し終わらせなよ。ちょ、ちょっとやめなよ。こっち見るな、って。なんかさあ、ベトベトした目つきで見られたくねえんだよ。なんつーの? 真夏の正午、アスファルトに貼り付いてる噛みたてのガムをビーチサンダルで踏んづけちゃった、みたいな不快さがあるのよ。つまりはしょって言えばキ・モ・イのよ、ちょーーーーーーーーキモイ。今日はこっちからガンつけ返すワケにもいかないんだからさあ。そりゃもう今日のあたしはあり得ないくらい綺麗よ、綺麗だけどさ、そりゃ生涯最高に綺麗な日なんだけどさ、そりゃ、そりゃもう当然なワケ。だって今日に照準合わせてエステ3ヶ月コース税込み17万8500円ナリにも通ったし、ドレスはもちろん桂由美の最高級ミカド・シルクで最高級ゴージャスだし、左手の薬指にはショーメとどっちにしようか迷いに迷って決めたヴァンクリーフ&アーペルズのアカント・エタニティだし、ネイルにつけた1/30カラットのダイヤは全部の指を合計すると30個で1カラットだし、朝なんかもう3:00起きだったワケ。白亜紀時代の地層から抽出した泥(金粉入り)で全身念入りにマッサージしてもらった上、ヘアもメイクも4時間以上かけて仕上げてもらってもう、もう最強決まってるワケ。今日が最高に今までで最高に綺麗でいられるようにもう、ハンパじゃなくて文字通り命賭けで迎えたワケなのよね、今日という日を。だって今日の主役ってあたしじゃん? 生涯に一度っきりのあたしが主役の日なわけじゃん? 結婚相手のユウくんでさえ今日は脇役に過ぎないわけじゃん? N、アンタなんかね、もうエキストラよ、エキストラ。レベルで言ったら通行人よりも格下よ、水たまりに棲むオケラみたいなもんよ、あたしオケラなんて見たことないけど、水たまりに棲んでるのかどうかも知らないけど。そのオケラ・クラスのあんたがあたしから目が離せなくなるのはそれは当然かもだけど、しょうがないかもだけど、なんかいやらしいのよ、その目つきが。絶対ヤらしいこと考えてるーって感じ? キモイんだってば。え? 何? 何? あり得なーい。ちょっとあり得なーい。アイツ、なんか股間に手ぇやってない? 超あり得ないよー、やだー。あたしの花嫁姿を見て欲情しちゃったってワケ? この純白のミカド・シルクの下でほんのり上気してる白い柔肌を妄想してるってわけ? あり得なーい。やだー、やめてよ。あいつ、もしかしてパンツおろした? もしかしてジャケットを脱いで(みんなが笑ってる)、うそ、ネクタイをはずして、ねばっこい視線をあたしにロックオンしたまま、Yシャツをはぎ取るように脱ぎ捨てて、一歩また一歩と近づいてくる。あたしはといえばまるでヘビに睨まれたカエルみたくアイツの股間から目がそらせなくなってて、あり得ないことに、ほんとにあり得ないことに舌の上にヤツの屹立したそれの感触が蘇ってくる(ああ、そういえば今日はクラッカーを1枚つまんだきりだった)、目の前に立ったNのむき出しの股間から視線をはずせなくなってる。ああ、そしてあり得ない、あたし自身の股間の内側からじんわりと熱いものが溢れ出してくる。あたしの視界のいっぱいを占めるヤツのそれが、あたしに突き刺されることを期待して? じんわりと頭の芯が痺れたようになっていったあたしは、視界の左側できらめいたものが見えなかった、そして。
 あたしの股間に突き刺されたものはヤツのそれではなくて、冷たく光る何かで、あたしは薄れて行く意識の最後の最後のかけらのその更に片隅で、桂由美のミカド・シルクがそれはそれは見事な真紅に染まっていくのがわかったの。そうか、これがあたしのお色直しなのね・・・これがあたしの




・・・本当の血痕式なのね




(暗転)




■□■□■□■【トラバでボケましょうテンプレ】■□■□■□■□■
【ルール】
 お題の記事に対してトラックバックしてボケて下さい。
 審査は1つのお題に対し30トラバつく、もしくはお題投稿から48時間後に
 お題を出した人が独断で判断しチャンピオン(大賞)を決めます。
 チャンピオンになった人は発表の記事にトラバして次のお題を投稿します。
 1つのお題に対しては1人1トラバ(1ネタ)、
 同一人物が複数のブログで1つのお題に同時参加するのは不可とします。

 企画終了条件は
 全10回終了後、もしくは企画者が終了宣言をした時です。

 参加条件は特にないのでじゃんじゃんトラバをしてボケまくって下さい。

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを記事の最後にコピペして下さい。

 企画元 毎日が送りバント http://earll73.exblog.jp/
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by midnight_egg | 2006-03-12 16:58 | トラバでボケましょう
なぜネコは
TBでボケましょう2006第1回お題発表!にTB


第1回お題

『2006年、今年は戌年です。
犬と猫、これほど大昔から馴染みのある動物なのにいくら待っても猫年はやってきません。
干支を決める時、神様が伝えた日にちを一日遅くネズミが猫に教えたため、猫は干支順番競争に間に合わなかったらしいですね。
で、それからというもの猫はネズミを追いかけるようになった・・・とか。これが一般的な説。
んが!違うのですよ、本当は。
猫が干支に入っていない本当の理由は・・・・・!!』




「あのときは本当に悪かったよ」とネズミがグレーの毛を毛繕いしながら言った。
「おまえさん、あのときはまだほんの子どもだったねえ。綿毛みたいに軽かったからね。
 あたしゃ、あんたが背中に乗っかってるなんて露ほども気がつかなかったよ」と白黒ブチの毛を毛繕いしながらウシが言った。
「俺だって、あの頃は若かったのになんでウシ婆ぁなんぞに負けたかなあ」と縞々の毛を毛繕いしながらトラが言った。
「あたしはねえ、準備がいいんだよ。自分が誰よりも足が遅いってわかってるからねえ。
 誰よりも早くでかけたってわけさ」
「足と耳の速さでは誰にも負けない自信があったのに」とウサギがかよわい声でつぶやいた。真っ白な毛を毛繕いしている。
「あんだと。俺様の前に出ておきながら文句垂れるたあどういう寸法でぃ!」と辰がギョロリとギョロ目をひん剥いて言ったので、ウサギは首を縮めて小さくなった。
「まあまあ、アンタ。素人衆をからかうもんじゃないよ。ほらご覧。背中の毛が逆立っちまってるじゃないか」と、細い舌をチロチロさせながらヘビが辰に寄り添いケラケラと笑った。
「オイラたちのあたりまで来ると、もう順位すら曖昧なんだよなあ」となが〜い顔を曇らせてウマが言う。
「本当ですわね。私はあなたに引っ張られて走ったようなものでしたけど」と、ヒツジも言った。もちろん彼女も自慢のフワフワの毛の毛繕いに余念がない。
「まあまあ、中庸ってのはいいもんですよ。ビリとかね、ブービーに比べたらよっぽどマシじゃないですかねぇ」とサルが小ずるそうに笑う。
「誰がブービーだとっ!?」聞きつけたイヌが牙を剥きうなるのを、すかさずトリがなだめる。
「まあまあ、まあまあ、まあまあ。どちらさんもこちらさんも、まあ、穏便にいきましょうや、穏便に」

「グー、グー」
これらの会話をまったく意に介さぬ、と思いきやイノシシはすっかり居眠りを決め込んでいるのだった。
「悪かった、とかなんとか。その口先具合がむかつんだよなあ」
背中をポリポリ掻きながら13匹目のネコが言った。

今宵満月。月明かりの下、13匹の猫の集会ははたから見れば、
ただただそれぞれがそれぞれの毛繕いに余念がない、そんな光景であった。

とどのつまりは十二支の12匹はすべて猫であって、
十二支からはずれたのも猫であって、
猫の上にも猫の下にも猫はなく、月明かりの下すべての猫は平等であった。
これはただ、猫大スキ・フリスキーにありつける順番を定めただけのものであり、
結果としては13番目だろうと14番目であろうと猫大スキ・フリスキーはふんだんにあり、
この世はおしなべて太平であってにゃーんの問題もニャいのであった。


にゃ〜ん手ネ!


<了>



■□■□■□■【トラバでボケましょうテンプレ】■□■□■□■□■
【ルール】
 お題の記事に対してトラックバックしてボケて下さい。
 審査は1つのお題に対し30トラバつく、もしくはお題投稿から48時間後に
 お題を出した人が独断で判断しチャンピオン(大賞)を決めます。
 チャンピオンになった人は発表の記事にトラバして次のお題を投稿します。
 1つのお題に対しては1人1トラバ(1ネタ)、
 同一人物が複数のブログで1つのお題に同時参加するのは不可とします。

 企画終了条件は
 全10回終了後、もしくは企画者が終了宣言をした時です。

 参加条件は特にないのでじゃんじゃんトラバをしてボケまくって下さい。

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを記事の最後にコピペして下さい。

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ちなみに「ベトナムでは丑は水牛、卯は猫、未は山羊、亥は豚に変わる(亥については、むしろ日本が特殊であり、亥は中国でも豚である)。モンゴルでは寅の代わりに豹を用いることがある。( ウィキペディア)」だそうです、cnabkamさん。
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by midnight_egg | 2006-02-17 22:27 | トラバでボケましょう
僕とマグロとマグロと僕と
女プログラマさんのマグロ祭りだ、わしょーい!にTB。

(10月10日はマグロの日です)



<僕とマグロとマグロと僕と>

僕の住む街は川の街だ。
いつでも空を切り取るラインには
きりんの首が見える。
そんな街だ。

しとしとと霧のような雨が降っていた。
ぐしょぬれになるわけではないが
体にじっとりと沁み込み、気付けば指先がかじかんでいる。
そんな秋の雨だった。

その雨の中を左手に倉庫街(その向こうに川)
右手に首都高を見ながら傘のない僕がじっとりと歩いていたときだった。
冷え切ったマグロと僕が出会った。


小振りの赤身だった。
マグロは僕と目が合うと愛嬌たっぷりに
ピチピチと体をくねらせたのだった。


(このままでは倉庫街に巣くっている猫たちの餌食にされてしまう)


魔がさしたのかもしれない。
次の瞬間、僕はそのマグロを地面からすくい上げた。

(ピチピチ)

そう、あのピチピチを見たときにはすでに情が移っていたのだ。

僕とマグロはともにじっとりと濡れそぼりつつ
僕の家へと向かったのだ。


--------

今、水槽の中にはぐったりとしたマグロ。
やっぱりマグロは陸では生きられないのかもしれない。

それでも僕が水槽に近づくといつも
マグロは弱々しくもピチピチと体をゆすった。


つやのなくなった赤身。
もはや赤、とさえ呼べないような。
別れの日が遠くないことを僕はとうに悟っていたのに。


----------

船に乗ろう。
一緒に船に乗ろう。

僕はマグロを胸に抱えて念じ続けていた。
川へ向かって走りながら。

一緒に船に乗ろう。
一緒に川面を眺めよう。
海に出よう。
君が生まれた海に出よう。
そして、
そして。


川が見えてきた。
ねえ、川に着いたよ。
川に着いたよ。

----------


とうの昔に鮮度を失ったマグロを僕はむなしく抱きかかえたまま。
知っていたはずだ、

なのになぜ、君を拾ってしまったのだろう。


僕は倉庫街を後にした。
埠頭を離れ川に沿って歩く。

橋が見えてきた。


さようなら。
僕は君を川に放すつもりだよ。


僕は君を川へ。

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by midnight_egg | 2005-10-10 22:48 | 祭りだ祭りだ