人気ブログランキング | 話題のタグを見る
エロロン・クエスト
深い肩胛骨のくぼみ。
薄い胸板、「ルパンIII世」に出てくる人みたいな細い足首。
彼よりあたしの好みを具現化している男の子なんて
彼のあとにも先にもいなかった。


バイト先の休憩室。
「・・・オレ今レベル11・・・」
聞こえてきた会話に思い切って口をはさんだ。
「ドラクエ? あたしも今やってるよ・・・」
ひ、ひかれるかな。
「おお♪ 今レベルいくつ? オレなんかもう。毎晩平均睡眠時間2時間よー」
やった。なんとも軽やかな返事が戻ってきた。
「へえー。ゲームやるんだ、意外〜」
外野のオンナ、うるさい。
こちとらおまえなんかアウト・オブ・眼中だから。
「コントローラ握ったまま、うとうとしちゃうんだよね。
 あのさ、レベル11なら教えてほしいとこあるんだけど・・・」

ここにバイトに入って3日目のことだった。
なんとかつかもうとあがいていた会話のきっかけは
実にあっさりと手に入った。ドラクエさまさまだ。
バイトあがるのは私のほうが1時間も早いのに
休憩室でだらだらと時間をつぶして彼があがってくるのを待つ。
「おまえさあ、せっかく早くあがったのにまだいるの〜?」なんて
からかい口調ながら「危ないから送ってやる」
いい男だね♪ もとい素直よね。もちろんそれが狙いなのよ。
すべてはあたしの思惑通りに進んだ。拍子抜けするほど簡単だった。
初キスはもちろん、バイト帰りの暗い路上だった。
彼の部屋に上がり込むまで一週間。
「帰りたくない」と発言するまでそこから3日。
彼のすらりとまっすぐな足と骨張った輪郭は本当に素敵だった。
大好きよ。もっとゆっくり楽しみたかったけどな。
かなり駆け足でここまで来ちゃった。

攻略済み。

いつも。
いつもここまで来るとやっぱり残念だなあ、って思う。
もっとゆっくり。もっとじっくり。
彼とセーシュンすればよかったかなぁ、って。
ごめんね、あなたをターゲットにして。
本当に本当に誰よりも好みだったよ・・・。
これまでで一番。たぶんこれから先もずっと。

ごめんね。
心の中でつぶやくと、あたしは彼の愛撫を受け入れ、
そして獲物をしっかりとくわえ込んだ・・・。


*  *  *  *  *  *  *  *  *


ドラクエももうVIIIかあ・・・。
あれから何年経ったんだろう?
あたしはファミコンで「ドラクエ」をやってた頃と
まったく変わらない18、19の少女の姿を今でも保ってる。
もちろんファッションとかはその時々に応じて変化してるけど。
今でも相変わらずファミレスやコンビニのバイトを転々としながら
今日もあたし好みの素敵な男の子を探してるの。
彼を越えるような男の子をね。



恐ろしいことにこんな未公開テキストが転がっていたのを発見してしまった〜。
江場中祭りに闖入してみる」の原文なのだわ。アプしはぐってたのね。時事ネタだったけどむしろ、はっきりとずれてしまった今の方がかえって読みやすいみたい。なので、臆面もなく今更アップ。厚顔無恥。
# by midnight_egg | 2006-04-20 23:46 | 散文
戴冠しました!
頬がゆるみっぱなしです。
アソコとかあんなとことかあんなあたりまでゆるみまくって
気を抜くともう、でろんでろんに溶けて流れってちゃいそうです。
くわばら、くわばら。
ただいま気合いでヒトの形と美貌を保っているような次第です。
こんにちは、クレマムです。

まあ、まあそんなわけで七不思議のひとつ(残りの六不思議は誰も知らない)とか
無冠の女王の称号を継承とか言われながら美しい私が苦節足かけ二年。
とうとう悲願のタイトルを獲得することができました。
ひまおさん(いないから)、オレとうとうやったよ!

これでもう、TBボケ選手権が今すぐ終了しても一向にかまわない・・・
げふん、げふん。

あー、とにかくありがとうございました。

それじゃ、次回第4回開催はさくっと

今週末22日土曜日で!(えー)


私もお題はまだ考えつかないのですが適当に見繕って開催強行します。
インターバルなしのきつさもTBボケ選手権の醍醐味のひとつ。
さあ、みなさんがんばってボッケリ〜ノ〜♪

(・・・なんて調子こいて参加者いなかったらどーしよーか?(弱っ
みんな、ファイトッ!
# by midnight_egg | 2006-04-17 11:32 | トラバでボケましょう
わたしの名前を呼ぶのは、だれ?<B-SIDE>(参加外作品)
あなたの胸を鞘に見立ててすらりとナイフを抜き放つ。
真紅の噴水を露わな乳房に受け、その白と朱のコントラストに恍惚となる。
と、あなたの指が、もはや動かないと信じていた指が
私の手首を握りしめる。思いの外強く握りしめる。
喉元から恐怖と嫌悪がこみあげてきて嗚咽と反吐があふれ出す。
声が出ない。喉の真ん中に恐怖のボールが詰まって息ができない。
あなたの手をふりほどこうとむやみに腕を振り回していたら
突然ふわりと開放される手首。
手首にはあなたの指のあとが赤くくっきりと巻かれていた。
またもや白と朱。
しかし美しかった白と朱の世界の中に、
今や吐き気を催す饐えた臭いが充満しつつあるのではないか?
ぐわんぐわんと耳鳴りがする。その耳鳴りの奥底に響く幽かな声。
あの声がまた、幽かにわたしを呼んでいるのだ。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


ショーは終わった。
カーテンコールは終わった。
スポットライトの魔法は消えて白茶っけた光の帯に舞うのは埃の渦だけ。
ベルベットの緞帳は、毛羽立ち色あせすり切れた疲れ気味の素顔を晒している。
ガムの噛みカス、煙草の吸い殻、唾、痰、丸めたティッシュペーパー、白い精液。
客席の床に散りばめられた残骸はわたしの勲章だ。
ステージの中央につと立ってわたしは誰もいない客席に深々と頭を下げた。
ジ・エンド。
今夜を境にもう二度とわたしがこの舞台に立つことはないのだと
喉元にこみ上げてくるものを飲み下し、私はひざまづく。
わたしの舞台、私の小屋。
キャパ50人の小さな小さな劇場だけど、この上もなく愛おしい。
そう、この板は50年以上もの長きに渡る私のパートナー。
男たちが、幾千人、幾万人と知れぬ男たちが
わたしに恋い焦がれ、わたしに欲情し、わたしを心で犯し、そして昇天した。
そのときにはいつもわたしを上に乗せ、わたしをあえがせてきた生涯の伴侶。
わたしはすべすべとした板を掌でさらさらとなでた。
それから腰をかがめ舞台に接吻する。
と、そのとき
わたしとステージとのこの上もなく神聖なこの時の中に
ずかずかと土足で割り込んできたしゃがれ声。

「ばばあ、まだいたのか。早く帰れ!」

わたしに「引退」の二文字を言い渡したのと同じ声がそれを言ったのだ。
その刹那、わたしの頭の中で小さな声がスパークしてはじけた。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


きみが綺麗だから、僕はいつだって言い返すことができなかった。
きみはいつも早口で、なんでもかんでも矢継ぎ早に言うから。
僕はいつも会話についていけなくて、うん、うん、とバカみたいに相づちを打つ。
よく動く形のいい唇を見つめながらなんて頭の回転が速いんだろう、といつも感心ばかりしてた。
きみの綺麗な白い指にとてもよく似合うリング。
本当に似合うと思ったんだ。だからおねだりされてとても嬉しかった。
これまでにバッグや靴やコートなんかをおねだりされたときももちろん嬉しかったし、
これまでにもキラキラした女の子が喜びそうなものはたくさんたくさんプレゼントしてきたけど。
でも、リングをおねだりされたのは初めてだったよね。
すごく嬉しかったんだ。だって、リングだもの。
とうとうきみが心を許してくれたんだ、とそう思ったんだ。
やっと触れることができる、綺麗なきみをかき抱き、壊さないようにそっと。
僕はとてもそっと、と思ったのに突然きみの口から、とても綺麗な形のいい唇から
聞くのもおぞましい、まるでもぞもぞとした虫の大群のような言葉があふれ出してきた。
げじげじ、もぞもぞ、いがいがとした虫の大群はいつ尽きることもないかのように
次から次へと列をなし、そのおぞましさに僕の目からは涙が溢れ出す。
綺麗な形のいいきみの唇からとめどなく溢れ出る汚く汚らわしい何か。
止めなくちゃ、早く止めなくちゃ。そのとき、僕の胸の奥底で僕を呼ぶ声がしたんだ。
とてもとても小さな声だったけど、それは綺麗で研ぎ澄まされた声だった、はっきりと僕を呼んだんだ。

「僕の名前を呼ぶのは、 だれ?」





「わたしの名前をあててごらん。

 わたしの頭は魚の頭。

 わたしのしっぽはキリキリと痛む。

 私の中身は炎天下で愛を失った。

 さあ、早く。わたしの名前をあててごらん。

 わたしの名前は、

 なあに?」









答え・・・殺意







第3回TBでボケましょう用に書きかけてたボツ・バージョンを一応最後まで仕上げてみました。最初とりとめもなく書き始めたらこんな方向に行ってしまったんですよね。だいたいミステリ風味オケだったのは前回だし。なんかボーっとしてるとこんな病んだ感じのものばかり書いてしまいます。あと「そこには誰もいないはずのシチュエーションで呼ばれる」というパターンも思いついたんだけど、その場合できあがるのはホラーだ。
# by midnight_egg | 2006-04-12 11:20 | トラバでボケましょう
春宵
MS.POKERFACEで開催中の第3回TBでボケましょうに参加。


第3回お題
「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」



んわんわんわんわん・・・。
頭の中でわんわんいう音が反響している。誰かがわたしの頭を左右に揺さぶり続けてるみたい。
やめれー。やめてくれー。薄目を開けてみる。光の帯の中で埃がきらきら踊ってる。眩しくて目がよく見えない。目を半眼にしたまま、こんこんと考えてみる。こんなこと滅多にないんだけど。飲み過ぎたのかなー。

いやいや。このわたしに限ってそんなことは。えーっと、まず乾杯は定番の缶ビールで。年に一度の花見だもん。発泡酒なんかじゃやってらんない。ちゃんとプレミアムモルツ奮発して。これは確かだ。しかし、プレミアムモルツのどこらへんがプレミアム? WBCのCがクラシックなのと同じくらいわからない。縦ロールの白いかつらかぶった人たちが野球やってる、みたいなビジュアルイメージになっちゃっうのよね、ワールド・ベースボール・クラシック。個人的に。

んで、二杯目はなんだったっけ? あれ? やばっ。もう思い出せない。つい昨日のことだよ、昨日。この分じゃただ今の脳年齢、98歳ぐらいだわ、わたし。えーっと、えーっと。誰かが持ってきた白ワイン、あれは甘すぎたよねー。んー? 二杯目がワインってことはないよね。私の中でずっと話題沸騰だった「氷結ゆず」に行こうとしたら全部「氷結グレープフルーツ」だったんだっけ。あり得ない。1ダース全部、グレープフルーツ。まあ、いいやって飲んだけどね、飲み慣れた氷結グレープフルーツを1ダース。ワンカップの中に桜の花びらが一枚、浮いていたのを覚えてる。あれはワインの前だっけ? あとだっけ? 風が急に強くなって、すごく寒くなってきたんだ。そして隣にいた、隣にいた・・・あれ? 隣にいたのは誰だっけ?

うだうだ考えているうちに大分、目が慣れてきた。
・・・って、あれ?
ここ、わたしの部屋じゃない!?

すっと、一気に酔いが引いていく気がした。
と、そのとき。
わたしの名前を呼ぶ声がした。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


まんねーなー、おい。うえー、気持ち悪い。宿酔いなんて何年ぶりだ? 飲み過ぎだってば。酔い潰すつもりが酔い潰されてどうするんだって。ざるだよ、ざる。生きたざる。自称ざるを名乗る人間ってのはこれまでも会った気はするけど、オレが本当にざるだと思ったのはこの女が生涯お初、ファースト・コンタクト・オブ・ざる。文法違う? 気にすんなって、オレがエーゴ、ペラペラだったらそれこそ意外でしょが。キレーなお姉さんだなー、と思って隣に座ったのが運のツキってヤツっすかね。キレーな月だったっすけどね、昨日は。いやね、こうして今、朝の光で寝顔見ててもそれなりにキレーっすよ、お姉さんも。でもよー。なんとかお部屋にお持ち帰りしたところで護身術が炸裂するとは。殺す気か? この女。殺されるかと思ったよー、こえーよー。んで、またオールで酒盛りッスか? 殺す気か?  ラブホでなくて夜景のキレーなお部屋を奮発したっつーに夜景なんか必要ないでしょ、この女。C2H5OH、つまるところ飲料アルコールさえあればよかったわけでしょ? あ、すげー、学あるとこ見せちゃったかな、オレ。C2H5OH。仕込んだのよ、仕込みですって。花見でキレーなお姉さん口説くためにさ、化学式なんぞ仕込んどいたのよ。ご披露する段で呂律が怪しくなって噛み噛みになったのは我ながらご愛敬よ。でさ、オレ今、冷蔵庫見て顔色が冷蔵庫より白ーくなっちゃたのよ。C2H5OH、空ですから。すっからかん。ゼロ。無。なーんにもなし。エーンプティ。

これの支払いどーすんだよー、オイ。
おい、起きろ! とオレが女の名前を呼んだそのとき、

「オレの名前を呼ぶのは、 だれだ?」

つれいいたしました。
わたくしはピンクの象です。
象と申しましても、このように体長は5センチくらいでございますね。
今からわたくしと愉快な5センチの仲間たちがピンクの象のパレードをご覧に入れます。
高さこそ5センチですが、長さは3メートルの大パレードでございますよ。
わたくしのことは隊長とお呼びくださいませ、体長5センチの隊長と。
わたくしただいま体調崩しておりまして隊長だけに。
でもご安心ください、わたくしどもには彼女がおりますだけに。
あれに見えますピンクの象、あれが我らがプリマドンナでして、
彼女のことはピンクの象とお呼びください。
それではジェントルマン(単数形)、我らがピンクの象を盛大な拍手でお迎えください!
と、このピンクの象的もっとも大事な局面に

「わたくしの名前を呼ぶのは、 だれです?」


ってるところわるいけどー。ちょっと静かにしてくんないかなー?
象だかショーだか知らないけれどー。ピンクだかビンゴだか知らないけどー。
今、朝だから。あたしはこれから休むのよー?
ショータイムはもーおしまーい。やるんなら深夜にして頂戴、深夜に。
あたしはさ、夜の女だからー。
あたしもねー、塩さえ撒かれなければ明るくたってなーんのこたないのよおー、ほんとは。
でもねー、ちゃんと休みたいのよねー。24時間営業なんてゴメン被るのよねー。
霊は霊なりにねー、お肌にも気を使ってみたり。
文字通りね、透けるような透明感溢れるお肌ってのを維持するためにねー。
必要なのよー、それなりに休息がー。このお部屋の専属霊としてね、
磨かれた自分を維持していくってね、それなりに大変なワケー。
なあんてあたしがあたしの職業倫理をご開陳遊ばしてたら
あたしのお腹を通過(失礼しちゃう)していく声がした。

「あたしの名前を呼ぶのは、 だあれ?」


、なんだー?
なんかいるー。
ぶんぶん。いーにおい。いーにおい。ぶんぶん。
ごちそう、ごちそう。すりすり。
あ、いま、通ったとこやな感じー。
ヒヤっとしたー。なんかいるー。
やな感じ、やな感じ、ぶんぶん。
お外。このへやの中、やな感じー、お外いこ。
お外だ。あれ?

「名前、呼ぶの、 だれ?」


見ろよ、前(笑
くっくっくっく。いっただきまーす。くっくっくっ。
まっすぐ突っ込んでくるたー。
くるっくー。ごっそさん。くっくっくっく。その時

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


をををを。
鳩よ、鳩よ!
おまえがそのくちばしに銜えている小枝を。
その小枝をわたしの手に! と、わたしが天に手をさしのべたそのとき、

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれだ?」


ブの書でーす、こんにちは。いや、なんで? とか聞かなーい。
強いて言えばだいぶ面倒になってきた、とか、そんな感じー?
え? 面倒って誰が? やだなー、突っ込まない、そこ突っ込まない。
突っ込むんだったらアレだけにして。硬くて柔らかくて太くて長いアレ。
そうそう、十分にたぎっているあたしの中に一気に突っ込んじゃってほしいの。
あ、やだ興奮してきちゃった。・・・突っ込んでくれる? 
あ、待って。あたしが沸騰するまで・・・待って・・・ん・・・ダメ、まだ・・・あ・・・
あ、もうすぐだから、待って、あ・・・まだ、待って・・・ん・・・ん・・・ん?

「あたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


ー、ちょっとぉ! 鍋!
鍋、火、かけっぱなしだよぉ? 火事になるよぉ?
家事は人に押しつけといて、ご自分は火事の仕掛け人ってわけですか?
と、怒り心頭、イヤミのひとつも言ってみたりしたのは、
だって鍋を火にかけたご本人がどこにも見当たらないからだ。
煙草でも買いに出ちゃったんだろうか? まったく・・・
と、そのときトントントン、とノックの音が。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


ックとはまた古風ではアリマセンカ。
しょうがないでしょう。壊れてるんですよ、この部屋のインタフォン。
トントントン、入れてください。鍵持たないで出ちゃった。
つか、今どきオートロックもない木造アパートにお住まいなわけで、
おまけにインタフォンも壊れちゃっててもう真実古風なワケっすよ。
せっかくの手動ロックなんだから。わざわざマニュアルで鍵かけないでくださいよー、中から。
ものの5分じゃないデスカ。開けとけよ。って、これがほんとのノックアウト。
って、言ってることまで古風になっちゃいましたヨ、と。
クラシカル・ギャグ。てかアンティーク・ギャグ。
とかなんとかこんな具合に一人遊びが上手な私を背後から呼ぶ声がして。

「私の名前を呼ぶのは、 だれ?」


、はっくしょん! おお。今日はうまいこと充満していけそうな予感がする。
となりのご主人ったら、また閉め出されてる。学習能力ってものがないのかしら?
まあ、だいぶ暖かくなってきたからいいようなものの。
はっくしょん! はっくしょん!
おお。いい感じで・・・ほうぼうで。
・・・充満するのが目的なのかな? わたし。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


、、ただ一人、軌道に乗って。まわり続ける。まわりながら
観測カメラが感じたデータをひとつひとつ、アウトプットしていく、
気温、湿度、地表温。 スギ花粉の飛翔量が上昇する季節。
花粉、とそっと呼んでみた。それが何なのかその実体も知らずにわたしは。
そして、また地球の自転に同期して何も知らずにただ観測し続ける。

わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


いち、とわたしは思った。
空、とわたしは思った。
雲、と思って太陽、と思って、
ひゅーと駆け抜けた。
空気とわたしは思って、わたしは空気だと思って
また駆けた。とわたしを呼んでいる声がする。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


ッツゴー! 風が来た。強い風が吹いてきた。さあいよいよ、わたしの番でしょう? そう思った次の一吹きで、わたしの足はガクから引き剥がされ遠く枝を離れてぐんぐんと上昇する。くるくるくるくるとわたしは上に下に舞い踊った。

くるくると自在に躯がまわるのだ。素敵だ。

わたしとわたしの仲間たちはくるくると踊る。踊り狂う。夜目にちろちろと白く光りながら。花冷え、花寒、花嵐。祭りが来る。春の嵐がくる。わたしたちは綺麗。見る者を狂わし、惑い、酔わせるほどに、綺麗。狂おしく光り、降り注ぐ。さあ、わたしたちをご覧、わたしたちを思う存分。酔いしれて。酔いしれて。ふっと風がやんだ、その刹那

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」


 あ、花びら?
水の表面が「みなも」なら、酒の表面はなんて呼べばいいんだろう?
「さかも」?
ワンカップの水面に浮かぶ白い花びら。
花びらに寄り添うように映るは月。
月がゆらりと揺らめいて、わたしはクッと月を飲み干した。

「わたしの名前を呼ぶのは、 だれ?」




月が

ゆらりと


わたしに尋ねた。

テンプレ
# by midnight_egg | 2006-04-10 12:04 | トラバでボケましょう
ぬぐう
ようやく家に帰ってきました。
相方はすでにベッドで眠っているようすです。むー。
疲れたよー、と口の中でつぶやき、よー、の語尾に合わせてベッドの足元にバッグをぽんと投げ出します。
続けてあたし自身もベッドにぽんと倒れ込んでしまいたいところなのですが
そこはグッとこらえまして。なんとかティッシュの箱に直行しました。
えらいえらい。まずはがんばったね、あたし。
ティッシュを一枚抜き取って唇をぬぐいます。すでにはげかけていたのでしょう。
ティッシュには弱々しいピンクの筋がかすれ気味に残っただけでした。

重力が、重たいよー。

でも駄目駄目。ベッドに触れてしまったら本当アウトですよお。
朝まで眠ってしまうに違いないです。夢すらも見ずにどろどろと。
あたし、またもやがんばりました。
まるで食べ終わったポテトチップスの袋の底から残りカスをかき集めるみたいにして
身体の底のほうにわずかに残ってる気力のカスをかき集めました。
かき集めた気力を全て使って、ロボットみたいにぎくしゃくした動作でベッドに背を向けます。
だって。とにかくメークだけは落とさなくちゃ。でしょ?
よたよたと洗面所まで行き、鏡の前に立ちます。

で。

鏡を見たあたしは唖然としてしまいました。


なぜかって、鏡の中のあたしには唇がなかったんです。
というか口自体がなかったの!
口がないクセに「ぽかんと」としかいいようがない
間の抜けた表情で鏡のこちら側のあたしを見つめている鏡の中のあたし。

あ・ぜん。

見間違いかな、と目をこすります。
するとなんと。
今度はこすった側の目(右目)が消えてしまいました。

(ぎゃあ!)

あたしは声にならない叫び声をあげました(心の中で)。
なんせ口がないものですから発声することはできなかったのです。

いったい全体何が起こっているのでしょう?



落ち着かなきゃ。



まずは落ち着くことです。
パニック起こしちゃ駄目駄目、駄目駄目。さあ、数を数えて。
いーち、にいー、さーん、しいー、ごー、ろーく、しーち、はーち、くー、じゅう。
・・・ふー。(深呼吸)
ええと。あたしは今、何をしようとしていたのでしたっけ?
そうそう。早く寝たいからとにかくその前にメークだけは落とそうと。

とにかくメーク落とし!
あたしはメーク落とし用のウェットティッシュを一枚抜き取ると頬を拭きました。
そしてもちろん、その行為は更なるパニックをまねきました。
当然の帰着って言ってもいいのかしら?
今度は鏡の中のあたしの顔から右頬が消えてしまっていました。

実はこう見えてあたし、気が短いところがあるんです。
右頬までも失ったことですっかり逆上してしまったあたしは、
次の瞬間、どうとでもなれという自暴自棄な気分になって
ウェット・ティッシュで顔全体をこすってしまったのです。
どうしてこう、こらえ性がないんでしょうか?
やるだけやってしまってから後悔しても遅すぎますよね。
顔のなくなったあたしって自分では見えないんだけど、
推理するに銀河鉄道999の車掌さんの顔のような具合になってるんでしょうか?
いやいや、車掌さんの場合は目が光ってるだけましかも。
あたしなんか目もないし、目も見えないんだよー?

あー、疲れてるのになんなの、もー!
この理不尽に対する怒りをどこにぶつけていいのやらわかりません。
ひとつだけいいことがあるしたら、
もはや肌荒れのことなんか気にしなくてもよくなったってことだけです。
そうよ、もうメーク落とさなくてもいいんじゃないの?
だったら寝よう。寝ちゃおう。寝てしまおう。
あたしは乱暴に服を脱ぎ捨てて下着だけになると、文字通り這ってベッドにたどり着きました。
(だって何にも見えないんですもの)
手探りで同居人のとなりに躯をすべりこませます。

オヤスミナサイ。



・・・と。
あー、もしもし?

あたし今日はすんごく疲れてるんだからやめてくれないかなあ?
同居人の手が私の胸の辺りをまさぐってくるんです。
あ、ダメ・・・とか思ったのはつかの間でした。
あたしの乳首から彼の指の感触がふっと消えました。

・・・でもたぶん、

彼がやめたわけではないのです。
彼の指に触れられたあたしの乳首のほうが、もしかして。



・・・!
やめてぇ。


抗議しようにも声が出せないあたし。
彼の指は今やあたしを押し広げようとしています。
そして、あ、ん、

        と、

   思う、

間もなく、

       あたしの・中

               から

     彼のゆび

          の

  気配が
         消
          え
           て


               そして


あたしの

      中に 広がっていく 虚空・・・



            ・・・彼は、殺人犯



などでは アリマセンよ・・・って、誰にも言ってあげられない・・・


        あたし・・・

                     もう、消えますね





          バイ。

More
# by midnight_egg | 2006-04-01 00:20 | 散文